MZ second  
FILE 75【虫の知らせ】  

そのおばあちゃんに会ったのは2回目だった
以前とある待合室で偶然隣に座ったのが最初の出会い
小柄で品の良い服装にさっぱりとした髪型。
おぼつかない足元を気をつけながら杖をついていた。
こんにちは」と細い声で挨拶をしてくれた
あっ、こんにちは」と私が笑顔で返すとおばあちゃんも静かに再度会釈
その後その場にいた2,30分の間、世間話程度にいくつか会話をした。

数ヶ月経ったある日、偶然そのおばあちゃんに会った
お久しぶりです、お元気ですか?」と声をかけると
ああこんにちは!」と小さい声ながらゆっくりと会釈
変わらぬ品の良さとやはりさっぱりとした髪型が印象だった

以前一度たまたま会っただけのどこの誰とも知らない人に
そんな話をする私では無いのだが・・・
そのおばあちゃんの顔を見た瞬間にその事が頭の中を
繰り返し繰り返し浮かび無意識のうちに口から言葉が出てしまった
虫の知らせって信じます?」と
何言ってるんだろうオレと心の中でつぶやきながらおばあちゃんを見ると
目を大きくし驚いた顔で私を見つめていた。
次の言葉を出せないでいる私におばあちゃんが聞いてきた
あなたは信じるの?
少しほっとした気持ちになりながら答えた
信じますよ、実際に何度もありましたし
するとおばあちゃんが話し出した
もう昔の話だけど・・・・本当に昔の事ね
 子供は3人いるのだけど、真ん中の息子がね、小学校の頃にね
 学校から帰って来たその息子の顔が死に顔に見えた事があってね・・・
 ”ただいまって”言ったその時の顔が本当に死んだ人の顔のように見えて
 びっくりしちゃってね
 その夜突然息子高熱を出して、病院に行ったんだけど結局助からなかったの
 虫の知らせかどうかは分からないけど、そう言う事があるんだな〜って
 世の中不思議な事や、そう言う事はあると思うのよ

その後おばあちゃんは、息子さんに何もしてあげられなかった事
その後その地を離れ別の場所に移り住んだ事
その後立ち直るまでに本当に辛かった事をとめどなく話し続けた。
心の何かが少しほぐれた気がするとおばあちゃんは笑顔で別れを告げた。

幼くして亡くなってしまった息子さんではあるが母に感謝しているのだろう
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そう言えば、そのおばあちゃんと会ったのもお盆前のこんな暑い日だった
あれから2年  元気にしているだろうか。


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