MZ second  
FILE 20【廃墟】
長野県(長野市)の北部
人里離れた山間に、数階建てのマンションがある
すでに廃墟と化し朽ち果てつつあるが、細い山道の行き着いたその場所に今でも影を落としている
余りに場違いなそのマンションが何時廃墟になったかは定かではないが
人の手が入らなくなり、周辺の木々雑草が取り囲んでいる
人が徐々に出て行った理由・・・  それは一家の無理心中

その話を聞いたのは、私が初めての車を購入してまもなくの頃
修行先でその年 新人後輩が6人入社した
レッスンのない日、寮の部屋でその新人の一人が話だった
「マジで?」
「はい! そこめっちゃ怖いっすよ」
その時私の部屋に居たのは私と新人の3人
「そう言う話やめましょうよ・・・」そこで聞いていた中卒の子が言った
「なんだよ、怖いのか?臆病だな〜」
15歳で親元を離れて間もない彼はホームシックにかかっていた
これは気分転換に連れて行ってやろうと、先輩面の私は考えた
「よし! 行くぞ」
「行くんですか?? 門限過ぎてるしヤバくないですか?」
「決まりは破る為に存在する」 名言だった・・・
寮は一階が駐車場になっていて道路から一段上がっている
午前0時前、音を出さないようギアをニュートラルに入れ後ろから押させた
駐車場から道に出るわずかな坂を利用して出きるだけ寮から離れる
10メートル程はなれた所で止まった
「よし乗れ!」
エンジン始動と共に吹かさないように走り出した
その場所を知っている新人の案内で1時間ほど走った
「こんな山の中にあるんか?本当に・・・」
「あります・・・だって昔行きましたから」
「いつ」
「小学校の頃   ・・・自転車で・・」
「自転車〜っ? この山ん中を!」
「はい、友達と3人で」
確かに彼の家はこの山の麓ではあるが
何とも頼もしい新人である
「この先・・・ここ曲がって    そこ右です」
そこで道は終わっていた
そして目の前には確かに場違いな巨大建造物が真っ暗闇に浮かびあがって見えた
目の前にそのマンションの土台のコンクリートがありその先にちょっとした踊り場そしてその先に廃墟
そして数え切れない壁面の窓 窓 窓 ・・・
ハイビームで照らして見た
入り口は私達の来た道しかないのに、今照らしてる所はなぜかマンションの背面
そして見ている窓は全てに障子が張り巡らされていた
しかも見事に全ての障子がぼろぼろに破れていた
余りにそれらしい雰囲気に車内はすでに恐怖が漂っていた
しかし先輩の面子にかけてここで帰る訳には行かない
「よし・・・ 行くぞ」
行くんですか〜・・
その時後部座席のホームシックな彼が言った
「嫌ですっ! 僕嫌です」
「男になるチャンスだぞ、来い!」
結局シートにつかまったまま離さないので仕方なく車に残す事にした
緊急事態に備えエンジンはかけたままハイビームにして廃墟に向かって3人で歩き始めた
5メートル程で土台に来た
その土台は1メートル程の高さでそこを上った
雑草が生い茂り横の山の木々が覆いかぶさるように取り囲んでいる
「怖〜・・  どこに入り口があるんだ?」
「確か横から行くとあると思うんですが・・・」
「そこから行けばいいんだな?」
この言葉を最後に誰もそこから動こうとしなかった
ハイビームで照らされた私達の影さえも得体の知れない者に見えるほどだった
あ〜っ!」懐中電気を持っていた案内した新人が固まった
彼の照らしている先を私ともう一人が見た
3階の端の部屋の窓 
余りに白い女性の顔がじっ・・と見下ろしているように私には見えた
同時に車からも悲鳴が聞こえた
とにかく逃げた
先輩後輩も無くわれ先に車に乗ろうともみ合いになった
ホームシックな彼はシートでぐったりしている
とにかくここから離れよう
バックに入れアクセルを踏む・・?
  ・・・動かない
エンジンが止まっている
いつ止まったんだ?
焦る気持ちの中パーキングに入れセルを回す
 
・・・回らない
チェックランプは全て点いてるのにセルのみ回らない
やばいぞ!
もう一度
 
・・・回らない
頭いたい・・・」 ホームシックな彼
僕も具合悪くなってきた」もう一人の新人
「大丈夫か?」 私
キュル ブ〜ン!
やったかかった
バックで強引にUターンし左に曲がった所でまたエンジンが止まった
勘弁してくれ
しかし幸か不幸かそこは山道・・・そのまま下り始めた
「よしこのまま行けるぞ!」
しかし
オートマの惰性運転中は(基本的には壊れる)油圧がかからないのでブレーキは重いなんてもんじゃない
さらに同じく油圧で回すパワーステアリングは1トン以上の車の重さをモロに受ける為
死に物狂いで切らなければ回らない
全力でブレーキ踏みながら1トンの重さを2本の腕だけで方向転換する山道・・・・
どう降りてきたかは恐怖よりも疲労で記憶が無い!
麓近くで何事も無かったようにエンジンはかかりホームシックな彼は元気を取り戻した
彼も車の中から顔を見たのだという
門限破りもバレずにすんだが、すぐ後に彼らは皆店をやめてしまった。
実はその時見た顔を今ではうっすらとしか思い出す事が出来ない
ただ皆で確認した言葉 「白い見下ろすような顔」
それだけは忘れない

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